FOILセイルの各バテンの役割
中級編では、FOILセイルの各バテンの役割について紹介していきます。
「バテンの基礎編、中級編」では、FINセイルの各バテンの役割について紹介しましたがFOILセイルの各バテンは、FINセイルの各バテンの役割とは、すこし違う性能が求められます。
今回は、7本バテンのFOILセイルをイメージして記載しますので、8本バテンのFOILセイルの場合は、6番(クロスブームのバテン)を、7番と考えてください。
【1番バテン】セイルの一番上のバテン
FINセイルでは、セイルトップエリアが海面の凹凸や風の強弱で、開いたり⇔閉じたりする時に僅かに遅れて、開いたり、閉じたりするスタビライザーの役割を担っています。(ウチワのイメージしてください、ウチワの根本で扇ぐと、先端に向かって、大きくウチワ全体がしなって、効率よく風を発生させますよね)セイルパネル面だけでなく、マストのサイドベンドにも同調して、綺麗にツイストして「ふわり、ふわり」と、しなやかに連動することが求められるため、柔らかいグラスファイバーのバテンを採用しているセイルが多いと思います。
しかしFOILセイルでは、この「ふわり、ふわり」の動きが抵抗になるため、1番バテンも硬いカーボーンチューブバテンを採用して、TOPエリアを動きを抑制して、綺麗に風が流れるように整流します。
【2番、3番バテン】セイルトップから2番目、3番目のバテン
FINセイルと基本的に同様で、セイルに流れる進行風を可能な限り、素早く流すためにFINセイルより高強度で、高反発の高性能のバテンが要求されます。
この2番、3番バテンが柔らかいと、セイルパネルがバタつき、空気抵抗が増し、ボードが上下左右に動き出すためセイラーのコントロールが必要になってきます。
テコの原理でイメージしてもらえると分かりやすいと思いますが、例えばセイルトップエリアで1㎝動けば、一番遠い水中のFOILでは数十cmの動きが、伝わるということです。
余談ですが、FOILセイルが出だした頃(5年くらい前)からは、FINの性能も格段にあがり、FINセイルもトップを閉じ気味にして、ミドルレンジでパワーを得るようなセイルデザインが主流になってきたため、某メーカーでは、いち早くFINセイルの1番、2番、3番に100%の細いカーボンチューブバテンを採用して、セイルトップの反応を面でコントロールするようなデザインにしていました。
話を戻します、基礎編でも書きましたが、FOILセイルは、ハイアスペクトデザインのため、同じ硬さのバテンでも、バテンの長さが短いため硬く感じます。更に飛び出したあとは、失速のリスクが少ないため、高速安定性を保持するための硬いセイルが求められます。(ちなみに世界で最も流通しているFOILRACEセイルは、市販FOILセイルの中で、最も硬いバテンを採用しています。)
LIBERTY では、SPUER STIFという市版バテンの3倍(LIBERTY 100%カスタムバテンの1.7倍)硬いバテンを特殊製法で、制作しています。
【4番、5番バテン】ブーム上2本のバテン
このバテンをどう選択するか?により大きくセイルの性能が変わります。
硬くすると、高速安定性が上がります。一見アンダー時やジャイブの立ち上がりなど初速パワーが、得づらくなりそうですが実際にはオーバーもブローが抜けたあともセイル形状が変わらずにアベレージスピードを維持して走れます。4番を一番固く5番をわずかにソフト(にそれでも100%カーボンより硬いもの)を使用します。テーパーバテンの先端の厚み変えフォイル変化(セイルの形状)を少なくして更に加速とアベレージスピードの向上に役立てます。
また上の1,2,3番バテン,下の6番、7番とのビネーションも重要です。(バテン1本だけ変えても、大きなメリットは得られないのです)
更にチューブバテンの硬さだけでなく、テーパーバテンの全長、テーパー長さなど、バテン単体のレイアウトの知識も必要になります。(テーパーバテン、チューブバテンの機能についても「バテンの基礎編、中級編」を参照してください)
【6番バテン】ブームに重なるバテン、クロスバテン
セイルパワーを得るために、一番重要なバテンです。
FINセイルでは、パワーを得るために、高性能の柔らかいバテン(カーボン含有率30%~60%)を採用していました。
このバテンチョイスもセイルデザイン、セイラーの技術、フィジカル、で大きく変わります。
テストの1例ですが、FINセイルの場合、F192:アントワン・アルボーは、カーボン含有率30%の柔らかいバテンを好みました。しかしJ52は、カーボン含有率30%では柔らかすぎて、オーバーパワーに感じるため60%のバテンを使用していました。
体重100kg近くあるアントワン・アルボーは、どんなに海面が荒れても、30%の柔らかいバテンから発生する大きなパワーをフィジカルと技術で、スピードに変換できたと言うことです。
面白いのが、FOILセイルのバテンテストでは、FINセイルと真逆の結果が出たということです。
F192:アントワン・アルボーは、カーボン含有率100%の硬いバテンを好み。
J52は、ジャストからアンダーコンディションだと、カーボン含有率100%だと硬く感じ、パワーロスを防ぐため、60%前後のバテンを使用しています。
しかしジャストからオーバー気味のコンディションだと、J52でも100%の硬いバテンの方が遥かに扱いやすく、乗りやすくなります。
アントワン・アルボーは、ジャストからアンダーコンディションでも、持ち前のパワーと技術でカーボン含有率100%の硬いバテンでも、的確に曲げられ、必要なパワーを得られるということです。
フォイルセイルでは、これまで記載してきたように、初速時のパワーや、しなやかさは、FOIL自体の揚力や、FOILボードの飛行特性で補われるため、この6番バテンも硬く高反発な高性能のバテンを採用しようとする傾向にあります、ただし硬くするリスク(パワーロスのリスク)も伴います。
結論的には、自分に一番あうフィーリングのよい6番バテンに巡り合えるのが理想ですが、超アンダーコンディションから、激オーバーコンディションまで、1本の6番バテンで、カバーできることは難しく、1本の6番バテンで補うなら、かなりライダーのスキルとフィジカルに頼ることになります。
またアンダーからジャスト時のコンディションで使うバテンと、ジャストからオーバー時に使用するバテンの2つを持つという方法もありますが、レース中のバテン交換は、リスクが大きすぎます。
そこで活躍するのが、チューニングバテンです。バテンポケットの隙間に差し込める細いチューブバテンなので、オーバーセイル気味に感じたらチューニングバテンを差込む、アンダーに感じたら、チューブバテンをポケットから引き抜くことで、セイルの性能が大きく変わります。
自分もPRO登録選手時代は、急変するようなコンディションで、よく海上で抜き差しして使用していました。ジャパンサーキットの20m/h近い激吹きのコンディションで、何度も1カミTOP回航したのも、実はこのような小細工のおかげです。ちなみにアンダー時に抜いたバテンは、マストスリーブの中に差し込んでおきます、そしてまたオーバーに感じるようなコンディションになったら、バテンポケットに差し込みます、海上でも所要時間3分で済みます。
またチューニングバテンを使ってみることで、どれだけセイルがバテンの影響で、安定して乗りやすくなるのか、手間がかからず、ローコストで、理解できるアイテムと思います。
【7番バテン】 フットバテン、一番下のバテン
FINセイルでは、アンダー時や低速時のパワーを得るためセクションであり、セイルアップやウォータスタート時の破損リスクを避けるため、フレキシブルなグラスファイバーや柔らかいロッドバテンが採用されていました。
最近のLIBERTY INTERNATIONAL RIDERのテストでは、FOILセイルのフットバテンのバタつきさえも、抵抗になるとインプレッションがあり、60%カーボンのチューブバテンとテーパーバテンを組み合わせた、最適なコンビネーションの7番バテンのテストが繰り返されています。
これまで記載したように、全てのバテンには、違った要求される機能がありその機能を最大限発揮できるように、適した材質が必要です。
更に、各バテンでの、最適バテンカーブ(セイルカーブ)を作るためのテーパーバテンとチューニングバテンとのコンビネーションとレイアウトのノウハウが必要になります。
その世界の最先端を突き進んでいるのが「LIBERTY CUSTOMバテンの開発」です。